蹴飛ばされて 転がってく 空き缶とかわらない毎日

『風ノ旅ビト』がすごく良いゲームだった

友人が遊びに来た時に教えてもらって買ったあとにしばらく放置してたんだけど雨でバイクも乗れないしということでプレイしたら、久しく味わってなかった素晴らしいゲーム体験が出来て興奮しているので勢いに任せて書いて行きたい。

PSストアで配信されている1200円のゲームでプレイ自体は2〜3時間もあればクリア出来てしまう。ゲームの目的は明確に語られることはないというか説明的な文章は全く無いのでプレイヤーが想像するしかないのだけど、古代文明の遺跡の力を開放しながら約束の地を目指して旅をする―――みたいな感じだ。できることといえば風の力を使ったジャンプと、なんらかの力を宿した声というか音みたいなものを出すことだけだ。ゲームの雰囲気も良く歩いてるだけで楽しいし操作感も悪くない。しかしこのゲームを俺のゲーム史のひとつとして刻むことになった直接的要因は全く別のところにある。このゲームはネットワークを利用して同じようにプレイしている旅ビトと出会えるシステムがある。しかし相手のIDは表示されないし、チャットみたいなものもない、意志表示は声みたいな音を出してみせたり目の前でジャンプして見せるくらいしか出来ない。一緒に旅をするもよし、すぐに別れるもよし、誰かを導くも誰かに導かれるも自由だが、俺にとっては『彼』との出会いがこのゲームをロープライスのお手軽ゲームから一生のうちにそう何度も味わうことの出来ない特別な体験に変えてしまった。
『彼』との出会いは最初のチュートリアル面を終えたすぐだった。広すぎるフィールドを目の前に何をすればいいのか分からないなと思っていたら砂漠の丘の上に同じような見た目の旅ビトを見つけた。「こういうシステムがあるとは知っていたけどマジで人がいるんだな」くらいにしか思わなかったファーストコンタクト、とりあえず声を出してみたらちょっと遅れて相手からも声が返ってきた。とはいえ初めての旅路でいきなり導かれるまま旅するのも面白く無いと思った俺は「まぁ俺は俺で好きにやらせてもらうぜ」とその場を後にしようとしたら『彼』はなんかついてくる。俺が仕掛けのようなただの残置物のようなものを目の前に試行錯誤してる横で同じようなことをしている。しかもこういっちゃ失礼だが『彼』は旅があんまり上手じゃなかった。目の前の壁を越えようとしたとき俺は3回目くらいで普通のジャンプじゃなくて風を使うんだなと分かって上に登れたのだが、『彼』は一生懸命普通のジャンプを繰り返しては届かずに地面に叩きつけられていた。仕方ないので自分も降りて目の前で実演すること5回くらいでやっと理解したらしく、二人揃って上に登れた時『彼』は声をたくさん発していた。なんとなくだけど言いたいことは分かるぞ。
こうやって始まった珍道中、時間にすればどうってことない筈なのに本当に色々あった気がする。強い向かい風にふたり揃って何回もふっ飛ばされたこと、そして物陰に隠れることに気付いてふたり身を寄せあって凌いだこと。石の龍みたいな化物にビビってふたり動けない中、いざ先行した俺がボコボコにされてる横を知らん顔で歩いて行く『彼』、ふたり並ぶと俺のスカーフの方が短くてまるで俺が駄目みたいじゃないか。吹雪の中、体は雪に埋もれそうになりながらお互いを励まし合うように消え入りそうな声を掛け合った事も忘れない。いつしか俺は本当に『彼』と一生をかけて旅をしているような感覚に陥ったけど、逆に全ての出来事が出来過ぎていて「コイツは本当に誰かが動かしているのか?俺を楽しませるためにゲーム側が用意したNPCかなんかじゃないのか?」とすら思うようになっていた。しかしそんな『彼』とも別れの時が来た。約束の地まであとわずかのところでふたりは力尽き倒れてしまう。しかしその時、何者かの力により俺はある場所へと運ばれた。吹雪の山を抜けた先、雲の上の世界だけど多分天国ではない。俺は辺りを見回してみる。『彼』の姿は無い。「ここに辿りつけたのは俺だけか…」とつぶやいたかもしれない。旅の終わりが近づいているのを感じながらも「そういえば最初の最初はひとりだったっけな…」と今までの道のりを思い出していくくらいの時間はあった。その走馬灯の終着と同時に間違いなくここが目指してきた場所だと思える地点に着いた時、溢れ出る光の中に一人の旅ビトを見つける。そこで『彼』が俺を待っていたのだ。こうやって俺と『彼』は再び出会い、ふたり光の中へ消えていった。そして流れはじめるスタッフロール…。…凄い!凄いぞ!これ本当に用意された筋書きじゃないのか?演出脚本俺なのか?俺だけじゃない!『彼』にお礼を言いたい!しばらくの放心ののち、PS3の最近遊んだプレイヤーからIDを探ろうとしたが載ってない…。後で気づいたことだがスタッフロールに相手のIDが載るらしいけど完全に見逃した。しかし相手が分からないのもこれはこれで良いような気もする。トロフィー『親友』をゲットしたけど本当にそうだよ。何処の誰かも分からない、けどこの数時間を共有しただけで間違いなく俺と『彼』は親友になれた、それこそ一晩かけてこの旅の思い出を語り合いたいくらいに。
俺の幸運はいくつもあった。途中でトイレに行きたくならなかったこと、中断の必要のない時間のある休みの日にプレイしたこと、あの時間にプレイしたこと、『彼』にあの場所で出会えたこと、3/15発売のゲームにあって俺も『彼』も初心者(多分)だったこと、そして何より『彼』と最後までプレイ出来たこと。万人が面白いと感じるゲームじゃないのかもしれない。けれど多分『風ノ旅ビト』をプレイした人は皆「俺の旅路が一番感動的だった」と思っているんじゃないだろうか。少なくとも俺はそう思っているし、出来れば『彼』にもそう思っていてもらいたい。いやー本当に良いゲームだった。教えてくれた友人にも今からお礼のメールでも送ろうかと思う。